客室の割り当ては「広さ」と「景観」で重みをつける
〜客室のバリエーションを検討する〜
客室の特徴に差がある場合(眺望がよい部屋・広い部屋・和洋室など)は、過去に取り上げたプランに加減する事で、客室のバリエーションを作ることが可能です。
これはある旅館の部屋のバリエーションが
6畳和室 4部屋
8畳和室 12部屋
14畳和室 4部屋
の3パターン20部屋のケースです。
これまで、すべての部屋の料金は一律で予約した人数や内容で部屋を割り当てていました。
特に8畳和室が眺望がよく、6畳と14畳の部屋は8畳の部屋に比べ、苦情がよく出ていました。
その現状を踏まえ、私は部屋の構成を次のようにアドバイスいたしました。
8畳の部屋は料金をこれまで通り据え置き(基準料金)
6畳の部屋は基準から2000円、14畳の部屋は基準から1000円それぞれ割り引く事にしました。
例えば、通常の料金が8畳のパターンで一人10000円だったところを、9000円、8000円と安くした事で、これまで苦情が多かった6畳の部屋から埋まるという現象が起きました。
これは、施設側からすれば、どうしてこうなったのか?という理由は次の通りです。
私は「部屋の条件が悪い=安い」といういわゆる「付加価値」をつけ、安くなった分、料理などのオプションをアップしたいニーズに対応する狙いがありました。
逆にビジネスプランと称した素泊まりのお客様についても新たに料金設定した際、6畳の客室を基本に料金設定を行い、8畳や14畳については、割増という逆の料金設定を行いました。一般的に多い一泊二食についても安く設定し、一泊朝食などのような場合は割り増しを行う事によって、料金にメリハリをつけました。
この手法はいわゆる単価の割安感を出す手法です。高い商品は安く見せ、安い商品は高く見せる。という戦略です。
一方、こういった料金にした際、施設側から質問がありました。
「松のプランは原価がかかるので6畳の部屋で出すと厳しい。8畳だけではだめなのか?」といった内容です。
私は「泊食分離で試算してください。」と答えました。結果的に料理の単価を上げることになりました。
原価計算の際、料理の原価と客室原価が曖昧になっている事例です、本来ならば客室の原価から割引を行えば、2000円割引を行っても採算は合うはずです。つまり、客室の単価という考え方ではなく、料理の単価を基本として、部屋の単価は一律に計算していたということがわかるお話になりました。
特にこの点は、泊食分離という言葉が提唱されるようになってかなり時間がたちますが、原価計算のうち、「部屋」という価値は、本来は簿価と言いたいところですが、部屋の眺望という「人間の価値観」は正直言いまして、プライスレスだと思います。
提供する宿側の考えがあくまでも「10000円」と言うのか「5000円」と言うのかの違いです。利用する顧客は10000円と5000円の価値は正直言いまして「わかりません」これは、事実です。
ただ、カップルで旅行に行き、眺望の良い部屋で楽しいひとときを過ごすのか、仕事で来て、寝るために宿を取るのではそのときに使うお金の価値は変わってしまうのです。
つまり、旅館(ホテル)がどういった顧客をターゲットにするのか?で変わります
眺望が良いことで選んだのに部屋がひどかったではせっかくの旅行も台無しです。同じ部屋でも眺望は気にせず、安く宿泊出来たということで満足する顧客がいるのもまた事実です。
現実はこういった料金計算が曖昧な事が全部の客室で提供できない状況を生んでいると思うのです。
つまり、部屋があればプランは部屋の数だけ増やす事ができる。予約する利用者は、こういったちょっとした「値頃感」を比較し、予約に至るのです。
現在の宿泊業界の事情
本原稿執筆は2010年頃です、2024年現在ではこういった研究も非常に進み、当たり前に泊食分離で原価計算を行い、確実に利益が出るようにしている要因の一つに「ダイナミックプライス」という手法が一般的になりました。
この中においては、「基本原価」×「繁忙期加算」という仕組みが確立され、繁忙期には、基本原価の0.5なのか、10なのかを自動的に計算し、算出するという利用者に取ってみればたまったものではありません。
筆者は、宿泊施設のコンサルティング業務は10年前にいったん収束し、その後は祖業であるITサポート業務を主体に取り組んでおり、宿泊業界と距離を置いた形というのが実際です。
ただ、宿泊施設は予約産業である故、生ものであると例えられます。
日付が過ぎたものを翌日に繰り越すことが出来ない、期日までに売り切らないと損をしてしまう。というのが通説です。
しかしながら、こういった商習慣から早い場合では1年前から前金制で予約を行い、キャンセルした場合は前金は没収するということも事実増えてきたことも事実です。
これは、過去に私が提唱した、「クレジット事前決済」でキャンセルしたら決済した金額は全額没収する仕組みを作るべきだと強硬に推進してきましたが、当時若かった私の声に耳を傾ける人は無く、性善説で予約を取っていた宿泊施設が多かったように思います。
しかし、予約金を取らず大量予約キャンセルなどの事案を引き合いに、キャンセル料請求の事件が後を絶たず、実際に徴収出来るケースは非常に稀です。
こういったことから、近年は宿泊施設予約は「クレジット事前決済」が基本となり、キャンセルした場合は、応分のキャンセル料を自動的に徴収出来るようになったことも施設側に取ってみれば朗報だと思います。
1%の不届き者のために、多大な労力とコストをかけて回収することは決して健全とはいえません。
ただ、筆者が言いたいことは、物事が性善説で成り立たなくなった。
ということに尽きます。